東京からはるか1,500km、種子島に始まり与那国島に終わる「南西諸島」の中枢を担う島、沖縄島。
亜熱帯の温暖な気候に育まれた独特の自然や文化を体験しに、季節を問わず多くの観光客が訪れる地ですが、こと我々鉄道ファンにとっては「国内で最も影の薄い場所」と言えるかもしれません。
沖縄島内(沖縄県内、と言い換えても同じですが)にある鉄道路線は、沖縄都市モノレール、通称「ゆいレール」のわずか17.0kmのみ。2本のレールの上を列車が走る、いわゆる「普通鉄道」に限れば1路線も存在していません。
しかし先月、私はそんな沖縄島から自宅のある東京まで、「鉄道を使って」帰宅しました。
しかも、「飛行機禁止」で―――!!

こんにちは。しょうゆです。
4月3日木曜日、朝5時30分。前日まで沖縄旅行を楽しんだ私は、いよいよ自宅へ帰ろうと荷物をまとめ、1泊2,000円の安宿を後にしました。向かう先はもちろん、沖縄の玄関口・那覇空港 ―― では、ありません。
まだ薄暗い明け方の道。ゆいレール旭橋駅から徒歩10分強、ひとけの少なく薄暗い大通りを進んだ先に、「それ」はあります。

「那覇港旅客ターミナル」です。
えっ!? と思われた、そこのアナタ。一体いつから――沖縄を出る手段が飛行機だけだと錯覚していた?

乗船手続きを済ませ、6時30分。巨大な船体を間近に眺めながら、マリックスライン「クイーンコーラルプラス」鹿児島港行きに乗船です。
実を言うと、私もこの航路の存在を最近まで知りませんでした。私の愛用する「JR時刻表」、鉄道に加えて全国各地のバスや船、飛行機の時刻も載っている優れものなのですが、なぜかこの航路は「大洗~苫小牧」「大阪~北九州」などをはじめとした主要フェリー航路の載っている「長距離フェリー」欄ではなく、鹿児島近辺の路線バスや短距離フェリーに紛れてひっそりと書かれていたのです。
そんな、ちょっとかわいそうなこの航路。時刻表ではページ下部6分の1ほどに追いやられていますが、その運航ダイヤは那覇から鹿児島まで25時間超え、全体で約800名の収容能力を有する、日本屈指の大規模路線なのです。

長時間の船旅にふさわしく、船内は充実のつくり。途中、与論島、沖永良部島、徳之島、奄美大島などに寄りながら、鹿児島へと北上していきます。ただ、本サイトは鉄道サイトですので、フェリーの話はほどほどに、翌朝へジャンプしましょう。

ブルートレインの開放式B寝台を思わせる2段ベッドで眠り、朝6時ごろ目覚めると目の前にはきれいな円錐形の山が。そう、開聞岳です。そしてそのふもとには、日本最南端の駅として知られる西大山駅があるはず。
しばし景色を眺め、8時30分、汽笛の音とともに鹿児島港に着岸。25時間30分の船旅が終わりました。
乗り鉄として各地へ遠征することも多い私ですが、実は九州に上陸するのはなんと約10年ぶり。それも幼少期で記憶が曖昧なので、ちゃんと九州の鉄道に乗るのは実質これが初めて。期待に胸躍らせながらシャトルバスで鹿児島中央駅に着くと、さっそく九州らしい派手なカラーリングの列車が待っていました。

JR九州の誇る高性能3扉気動車、キハ200系!角形ライトがかっこいいですよね。黄色い311系にしか見えないのは私だけでしょうか。

独特のモノトーンな車内に並ぶロングシートに揺られて指宿枕崎線の旅を楽しみ、20分ほどすると五位野駅。本当は枕崎まで行きたかったのですが、私はこれから東京へ帰らねばならない身です。当駅で折り返し、鹿児島へ戻りましょう。

折り返し鹿児島中央行きとしてやってきたのは、みんな大好きキハ40形!
日本最北端の宗谷本線からここ指宿枕崎線まで全国各地で活躍した気動車ですが、令和に入ってから急速に置き換えが進行しています。東日本と東海では(ほぼ)消滅、北海道でもほとんどが置き換わり、さらに四国の車両も余命宣告。しかし、ここ九州ではまだまだ数多くの車両が現役なのです。

西日本では体質改善工事により消えた上昇窓も、まだまだ堪能できます。快晴の空の下、南国の新鮮な空気を吸うこの時間、至福以外になんと言い表せましょうか。
指宿枕崎線の短い旅が終わり、鹿児島中央駅に戻ってきました。諸事情で旅行前に乗車券を買えなかったため、この駅のみどりの窓口に並びます。複雑な経路を伝えましたが迅速に対応していただき、窓口の方々の技術に感動。しかし、発券された切符が私の予想を裏切ります。

おぉ、なんかデカいぞ……!
そう。経由を多く指定したためか、通常の乗車券に用いられる「85ミリ券」ではなく、寝台券やかつての青春18きっぷなどと同じ「120ミリ券」で発行されたのです。乗車券で120ミリ券を見たのは初めてだったので、ちょっとびっくり。もちろん、自動改札は通りませんので、有人改札での対応になります。しかし、それも旅情を感じられて楽しいもの。ちなみに、もっと複雑な経路を指定すると「補充券」なる特殊な切符が出てくるのですが、それはまた別の機会に紹介しようと思います。
経由欄に書き連ねられた線名を見て高まる興奮を抑えつつ、さっそく有人改札を通過。いよいよ本格的な「帰宅」の始まりです。

帰宅1列車目となる13時10分発の日豊本線都城行きは、817系の転換クロスシート車。鹿児島地区は817系のクロスシート車とロングシート車が混在する区間、少しドキドキしていましたが、ありがたいことにクロスシート車に当たりました。
この座席、見た目は水戸岡デザインらしく奇抜なのですが、近郊型電車としては珍しく本革張りを採用していることもあってか、案外座り心地は悪くありません。錦江湾と桜島の景色が美しい海側の座席を確保し、発車を待ちます。
どんどん乗客が増える車内。座席が埋まり、立ち席も多数出てきました。そしてなぜか、乗客が増えるのに比例して、運転室から聞こえる無線の音が騒がしくなっています。発車時刻を過ぎ5分、そして10分経った頃、突如として客室の照明が消えました。

デッドセクションを感じさせる無灯状態を2分ほど過ごしたのち、再び照明が点いて一安心したかと思った瞬間。衝撃的な車内放送が入ります。
「えーお客様、大変恐れ入ります。本車両、空調故障のため、向かい側ホーム停車中の電車に車両を交換いたします」
え、えぇ~~!!
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未分類2025年6月28日沖縄から鉄道で東京に帰った話【前編】



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